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「移入種と生物多様性の攪乱」シンポジウム開催に当たって
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松 浦 啓 一 国立科学博物館動物研究部 日本分類学会連合は,生物の分類や種の問題を中心的なテーマとして生物多様性を研究する学会の連合体である.生物多様性は人間の生存にとって極めて重要であることが,日本の社会でも最近になってようやく認められるようになってきた.しかしながら,高度成長期の乱開発を指摘するまでもなく,人間の様々な活動が生物多様性に深刻な影響を及ぼし,多くの生物を絶滅の危機に追い込んでいる事態が大きく改善されたとは言えない.乱開発による生物の生息地破壊が,生物多様性に極めて深刻な影響をもたらすことは明らかであるが,移入種という生物学的な要因も生物多様性にとって重大な脅威となっている.ごく最近,マスコミでも取り上げられたことであるが,日本に生息するカメ類の観察記録によると,日本在来種が非常に少なくなり,移入種であるミシシッピーアカミミガメが多くの水系で非常に多くなっている.事態は極めて深刻である.また,高等植物や,魚類,昆虫などでも同様の状態が見られる. 移入種の問題は分類学や生態学関係の学会のシンポジウムでこれまでにも取り上げられたことがあるが,移入種が含まれる分類群を横断的に扱った例は少ない.しかし,移入種と生物多様性の問題に取り組むためには,異なる分類群に属する移入種を総合的に取り上げる必要がある.今回のシンポジウムではクワガタムシ(昆虫),タンポポ(高等植物),爬虫・両生類およびブラックバス(魚類)という様々な分類群を取り上げる.さらに,典型的な移入種を含むこれらの分類群に加えて,従来あまり話題になることがなかったバラスト水に含まれる脅威にも焦点を当てることにした.そして,移入種問題に対する今後の指針を検討するため,環境省の担当者にも講演をお願いした.移入種は極めて大きな課題であり,かつ複雑な性質を持っている.そのため問題解決への道のりは平坦ではなく,多くの努力と時間を要することは明らかである.そのような努力の一環として,生物多様性を研究している様々な分類学研究者が一堂に会して移入種問題を検討するため,このシンポジウムを企画した.本シンポジウムが様々な分類群における移入種の実態を明らかにするとともに,移入種問題解決の方向性を探る機会になれば幸いである. |
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