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外国産クワガタムシの大量輸入がもたらす生態リスク
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五 箇 公 一 国立環境研究所 昆虫類は世代期間が短く繁殖力も強いため,ひとたび侵入種となった場合,極めて深刻な影響をもたらす恐れがある.我が国においても,これまで様々な侵入害虫による農林作物等への経済被害を被ってきた.しかし,これらの「害虫」はいわば農耕地,植林地,市街地,家屋といった,自然界にはない人為攪乱環境にたまたま適応し繁殖した集団であり,自然生態に及ぼす影響は重大なものではなかった.近年,我が国では,こうした偶発的侵入とは異なる意図的な昆虫の輸入が活発となっている.すなわち,産業目的で様々な国から様々な昆虫の生体輸入が推し進められている.その内訳は天敵農薬やセイヨウミツバチなどの農業用資材,魚の餌用のアカムシ(ユスリカ幼虫)等も含めて,実に目的・種類とも多岐に渡るが,そのほとんどが輸入実態すら世に知られぬまま膨大な量で輸入されている. 農林作物に被害をもたらす害虫の侵入に対しては植物防疫法という法的規制があるが,こうした産業用昆虫類の輸入については,何ら法的規制は受けない.しかし,農林作物を加害しない種でも野生化した場合,自然生態系に影響を及ぼす可能性は十分に考えられる.導入昆虫の原産地と日本の野外環境が大きく異なることから,その野生化の可能性を否定する意見がよく聞かれるが,昆虫類の年間世代数や豊富な変異を考慮に入れれば,導入昆虫の新天地への適応可能性は完全否定できない.リスク管理の原点に立って,産業用輸入昆虫に対しても様々な角度からの環境影響評価は必要と思われる. 近年,我が国ではクワガタムシの飼育が大ブームとなり,国産および外国産クワガタムシが商品として大量に流通している.かつてない大規模なクワガタムシの人為移送によって,日本および世界のクワガタムシの多様性が脅かされるのではないかと危惧されている.本講演では,クワガタムシの商品化がもたらす生態リスクの中で,とくに種間交雑による遺伝的浸食および外来寄生生物の持ち込みという生物学的問題についてクローズアップし,当研究所で得られた実証データに基づきながらその実態を紹介し,さらに我が国における今後の昆虫輸入のあり方について議論したい. |
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