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島の外来種問題:琉球列島の爬虫・両生類の場合
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太 田 英 利 琉球大学熱帯生物圏研究センター 上位捕食者や競争相手が少なく全体として構成の単純な島嶼の生物相は,より多様性の高い大陸的な環境下で形成された生物相に比べ,外来種がもたらすインパクトに対し一般に脆弱であるとされる.端的な例として,もともと脊椎動物食のヘビのいないグアム島にミナミオオガシラ(Boiga irregularis)というヘビが持ち込まれた結果ひき起こされた,在来脊椎動物相の急激な崩壊が挙げられよう.グアム島では1950年代にこのヘビが持ち込まれると,それから30年たらずの間に鳥類をはじめほとんどの在来脊椎動物が激減し,今ではその多くが絶滅や野生絶滅の状態に陥っているのである.グアム島のような海洋島に比べて大陸島は,一般に大陸から切り離されてからの経過時間が短いため,このような外来種に対する脆弱性はそれほど顕著ではないと予想される.しかしたとえば琉球列島のように,大陸島であるにもかかわらず高い割合で固有の分類群を擁するような隔離時間の比較的長い島嶼群では,その生物相について海洋島の場合と同様の外来種に対する脆弱性が予想される.ここでは私の専門である琉球列島の爬虫・両生類相に関係した事例にもとづき,生物多様性保全の観点から島嶼の外来種の問題について考えてみたい. 外来種が在来種の多様性に影響を及ぼすプロセスは単純なものに限るならば,まず (1) 捕食による食いつくしと,(2) 同じ資源をめぐる競争を通した排除が考えられる.また少々特殊な想定ではあるが,(3) 体に捕食者に対し有害な防御物質を持つ外来種がその物質に対する抵抗力・予測力のない在来の捕食者に食べられることで,結果として後者の減少をもたらす場合も考えられる.さらにこうした外来種から在来種への1次的な影響は,その結果が食物網のさまざまな箇所に2次的な影響を及ぼすことで,ついには島嶼生態系のより大きな範囲をゆるがすことになるかも知れない.(1) の典型例としてトカラ諸島の中・北部,ケラマ諸島の1部,宮古諸島,八重山諸島の1部などで顕著な,人為的に放逐されたイタチによるトカゲ類をはじめとした在来の爬虫類の食いつくしが挙げられる.スッポンをはじめとした外来性のカメ類,ウシガエル,オオヒキガエルなどによる小動物の捕食も,在来の生物多様性に大きく影響すると予想される.ただし具体的な資料はまだきわめて少ない.(2) の例としてはかつて琉球列島の全域から記録されながら,現在は奄美諸島の1部以外ではほとんど見ることのできないタシロヤモリに対する,外来種ホオグロヤモリの影響が考えられる.もっともこれについてもこれまでのところ直接的な証拠はほとんどない.(3) については皮膚毒を持つオオヒキガエルが捕食性のヘビ類や鳥類に及ぼす影響が考えられる.事例は国外では多く報告されているが,琉球列島内で本種の定着している石垣島でも若干の関連する観察がある. 一方,島嶼域では近縁生物集団間に物理的な隔離が生じ,それが異所的種分化につながることで種の多様性・固有性が増加するという側面もある.したがって,(4) 隣接地域から在来種と近縁の個体が持ち込まれ,それが在来集団内で交雑することで遺伝的撹乱とそれに続く遺伝的独自性の喪失も考えられる.これも島嶼における外来種による在来生物多様性の喪失の1つの型と位置づけられよう.琉球列島の爬虫・両生類の場合,ハブ属やヤマガメ亜科で外来種?在来種間での交雑が記録されているが,これが遺伝浸透を通して在来種の遺伝的独自性の喪失につながるかどうかについては依然未知数である. |
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