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多様性保全か有効利用か
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瀬 能 宏 神奈川県立生命の星・地球博物館 ブラックバスとは,サンフィッシュ科オオクチバス属魚類Micropterusの総称で,日本には1925年に神奈川県芦ノ湖に移入されたオオクチバスM. salmoidesと,1991年に長野県野尻湖で初確認されたコクチバスM. dolomieuの2種が侵入している.また,前者のフロリダ半島産亜種M. salmoides floridanusも1988年に奈良県池原貯水池へ放流された.いずれも釣りの対象として人気が高く,1970年代以降,バス釣りブームと連動して釣り場拡大のための密放流が横行し,オオクチバスは北海道から沖縄までの全国に拡散,コクチバスについても2001年7月までに37都道県から記録された. ブラックバスは,食性や体サイズ,繁殖方法など,その生物学的特性から,魚類や水生昆虫といった在来種の存続に深刻な影響を与える侵略的外来種であると認識されている.生物多様性保全の観点からは非常に危険な存在であり,最優先で排除すべき対象である.実際,ブラックバスの移殖放流については,沖縄県を除いて漁業調整規則により規制されているし,最近では滋賀県のように釣り上げたバスをその場で再放流する行為(いわゆるキャッチアンドリリース)を条例により禁止したところもある. ではなぜ「ブラックバス問題」は解決の兆しを見せないのだろうか? それは,享楽とうわべの経済的利益を享受し続けるために,自然界からバスがいなくなると困る社会勢力が根強く存在するからに他ならない.釣り具メーカーや釣りメディアなどにより組織される(財)日本釣振興会(会長:麻生太郎氏)は,2000年9月,公認バス釣場増設を求める100万人署名運動を開始,それに呼応するかのように,2000年11月,水産庁はブラックバスを有効利用するゾーニング案を突如打ち出した.このような動きに対して,日本魚類学会をはじめとする学術団体や市民団体は,2001年2月に有効利用に反対する要望書を水産庁に提出した.しかし,日釣振の基本的姿勢は今も変わりはなく,排除か有効利用かのバスを巡る議論は未だ解決をみないままである.それどころか,50名近い国会議員超党派によって「釣魚議員連盟」(会長:綿貫民輔氏)が組織されたり,バス釣り愛好家やタレントなどによるバス擁護のための情報発信がインターネット上で行われるなど,新たな勢力が育ちつつある.さらに,真意は不明だが,外来種問題解決に向けての取り組みに水を差す無責任で反社会的な発言を繰り返す影響力の大きい有識者が現れるなど,新たな対立軸も生まれている. バス擁護のための主張は,詭弁と強弁に終始する荒唐無稽なものであるが,こうした動きを決して侮ることはできない.駆除の困難性につけこみ,「有効利用」を受け入れさせられる危険性があるからである.バスの有効利用があり得るとすれば,非利用水域からの排除技術を確立し,駆除効果が確認された上で,利用水域において,1)生物多様性への影響が許容できる範囲に維持されると判断される根拠の提示,2)モニタリングの実施と悪影響が認められた場合の迅速な対応,3)持ち出しや流出等による拡散の防止,4)市民や漁協など関係者の合意,が必要であろう.もちろん,一連の調査や対策費は,受益者負担で賄われるべきであることは言うまでもない. バスを巡る様々な動きの中で,研究者は何をすべきなのか? 科学的なデータを積み上げれば多くの人たちを納得させることができるという主張は正しいが,それでも納得しない勢力が少なからずあることをまず念頭におくことである.そして,それぞれの立場での慎重かつ積極的な発言,あるいは行動が求められている. |
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