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新種記載はスピード・アップできるか?

新種記載はスピード・アップできるか?

馬 渡 峻 輔

北海道大学大学院理学研究科

 地球規模の環境問題を解決し,生物多様性を守り,人類の生存を保証する方策は,生物がどのくらい多様なのか知ってはじめて可能となる.そのため,「どんな種がどのくらい」生息しているかを知る学問,すなわち分類学に期待が高まっている.ところが,現在の既知種数175万は予測生息種数の数〜数十%にすぎないと見積もられている.リンネ以来の200年間で記載された種をたとえば100万とすれば,1年間で5千種が記載されてきたことになる.このペースで記載が進むと仮定すると500万種の記載に1000年かかる.新種記載の速度を速め,短期間で地球上の全生息種を明らかにしなければ環境問題の解決前に人類は滅亡してしまう.

 以上の問題意識のもと,平成15年度科研費補助金基盤(C)「新種記載をスピード・アップする方策を探る」を獲得し,単細胞藻類から海藻,シダ,コケ,陸生菌,海生菌,裸子植物,被子植物,および紐形,軟体・節足・袋形・苔虫・脊索の各動物群に至る全真核生物を網羅する主な日本の分類学研究者合計20人が一堂に会して知恵を絞り,新種記載をスピード・アップするための方策に関する基礎的討議を行った.

 要は,?分類学者の数を増やし,?分類学者は一人あたりの生産量を増やせば,目的は達成される.

 まず,?分類学者は一人あたりの生産量を増やすため,分類学研究を,1.採集─2.標本処理・作成─3.観察─4.同定(既知種か未記載種か判断,未記載種であれば既知種との比較)─5.記載─6.発表に分け,各段階ごとに無駄を洗い出した.その結果,1.採集,2.標本処理,4.同定,および5.記載の各段階において無駄が発見された.具体的には,「採集の協同化と効率化」,「標本処理・作成の効率化」,「文献,分子,タイプ等の分類情報の公開」,「記載フォーマットの規格化」等の方策が記載のスピードアップに結びつく可能性が指摘された.さらに,3.観察においては,CTスキャンを用いた生物体内部形態立体再構成マシンなど,将来の技術的な可能性も論議された.

 本日のシンポでは,まず白山義久氏に「新しい方法で標本からの形質を抽出する」方法をSFの世界を含めて話していただく.続いて,「形質記載をスピードアップする方法」を単細胞藻類を例に堀口健雄氏に,そして「分類学情報を共有するシステムを開発する」と題して伊藤元巳氏に分類学データベースの可能性と現状について述べていただく.

 ?分類学者の数を増やすことは容易ではない.しかし,これこそ「日本分類学会連合」が将来に渡ってその活動目標に定めるべき事柄である.この件については松井正文氏に「分類学研究者を増やす方策」と題してお話しいただく.

 ここでは,新種記載をスピード・アップするための策のうち,すでに進行中のいくつか,文献のデジタル化,マルチ検索同定ソフトの開発,分類学を世間にアピールするためのパフォーマンスとしての「これが多様性だ!」プロジェクト等々を紹介する.