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分類学情報を共有するシステムを開発する

伊 藤 元 己

東京大学大学院総合文化研究科

 新種記載のスピード・アップという課題では,さまざまな研究プロセス,社会的環境でのボトルネックが存在する.ここでは,おもに対象が新種であるかどうかという判断をする分類学の研究過程で,情報の入手という場面に焦点をあてて論じる.

 分類学は生物のカタログ化をすることが目的の1つであり,その意味では情報学の側面を有している.分類学は古くから,リンネの二名法に基づき,紙(出版物)ベースでの情報管理を行ってきた.しかし,計算機と情報技術の発達により,より効率のよい方法が可能になってきている.

 分類学者が行う研究活動のうち,かなりの時間が情報の収集に使われている.その情報とは文献情報であり,また標本に関する情報である.ある分類群の専門家は,通常長い時間をかけて,対象生物についての分類学の文献を収集し,自分の収集した標本や,他の機関の所蔵する標本を検討して研究を行っている.これらの情報は,通常,その研究者が私有するものであり,分類学者の密度を考えると,多くの情報はその研究者一代で失われてしまっている.すなわち,後に同じ群を研究する分類学者は再び自力で情報の収集を行わなければならないのである.

 このような情報の散逸を防ぎ,情報収集にかける時間を最小限すするためには,分類学情報の電子化とデータベース化が有効と思われる.それでは現実にはどのような分類学情報が,データベース化されるべきであろうか?

文献情報データベース

 最近では,多くの学術ジャーナルが電子出版されるようになっていて,インターネットに接続されたコンピュータ(と論文へのアクセス権)があれば,一瞬にして論文を入手することが可能になっている.しかし,分類学関係のジャーナルの電子化はまだまだ十分進んでいない.さらに,古い(80年代以前!)文献は電子化がほとんど進んでおらず,技術の進歩の恩恵にあずかれる状況にはなっていない.古い文献などは数が限られ,自国の図書館には存在しないことも多い.分類学の研究過程では,原記載論文に当たらなければならないことも多く,古い文献の電子化と国際的共有体制の構築が望まれる.

標本情報データベース(特にタイプ標本)

 分類学の研究を進めていくには,数多くの標本を検討しなければならない.とくに,タイプ標本は,学名の検討には不可欠であるが,実際にタイプ標本を研究するには,所蔵機関に出向くか,借り出す必要がある.どこにタイプ標本があるかという情報を得るのも苦労することが多く,またタイプ標本は貸出できない機関もあり,アクセスには時間と労力がかかる.その意味でもタイプ標本情報のデータベース化は優先順位の高いことである.また,画像が添付してあれば,実物を見なくても済むことも多い.

 このほかに,学名情報のデータベースが必要である.その群の専門家には必要ないかもしれないが,学名情報は他の情報への一次キーとなるので,その充実は不可欠である.

 本講演では,これらの分類学情報データベースをどのような形で構築し,連携していくかについて論じ,代表的なデータベースについて紹介する予定である.